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患者報告アウトカムを医療の意思決定に役立てる | 武田薬品

赤いソファに座ってモバイル端末を見ている女性

患者報告アウトカムを医療の意思決定に役立てる

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2025年9月19日

「自分の声を役立てたい」という患者さんの思いを乗せた一般公開ダッシュボード

医療従事者や規制当局、保険者など医療に関わる人たちは、多くの情報を元に、患者さんケアに関する意思決定を行います。彼らが情報源としているのは、臨床試験から得られた正確で標準化されたデータです。そこには、再発率や検査数値の増減などの「臨床アウトカム」や、患者さんが直接感じたことを報告する「患者報告アウトカム(PRO」も含まれますi

※アウトカム(outcome)は「結果」を意味し、治療や予防などの医学的介入によって得られる検査値の改善や合併症の発生率など、すべての結果を指します。

しかし、臨床試験という厳格に管理された(そして費用のかかる)環境から一歩外に出た「リアルワールド(実際の医療)」では、どのようにPROを入手し、意思決定に活用できるでしょうか。実際に治療を受けた患者さんの声を共有できるツールがあれば、患者さんをサポートできるかもしれません。患者さんしか分からないアウトカムもあるからです。

患者さんの声が貴重な情報になるii iiiという認識は広く普及しつつありますが、このようなデータを効果的に集めるのは難しい場合があります。PROの収集には一貫性がなく、十分な頻度で収集されていないことが多いという報告もありますiv v vi。得られたデータが主要ステークホルダー(医療従事者や規制当局、政策立案者、研究者、患者さん、製薬企業など)に共有されることもあまりなく、必ずしも学びに繋がっていない現状があります。そこで必要となるのが、体系的に収集・分析する、標準化されたPROです。

今回ご紹介する新たなダッシュボードは、これらの課題に対応するため、収集方法が標準化された公開ダッシュボードとなっており、すでに1,600名を超える患者さんが匿名化されたデータを提供しています。プライバシーが保護されれば、デジタルツールを活用して自身の経験を共有したいという患者さんの意思が反映されていると言えます。リアルワールドデータを共有する概念実証の役割も果たしています。

なぜユニークなのか?


タケダのクリストフ・ウェバー社長CEOも、デジタルツールでPROを収集することへの情熱を、次のように話しています。

「私たちに必要なのは、健康に関するデータを標準化された形で報告、収集、分析する方法です。それがあれば、患者さんのアウトカムを意思決定の基盤にすることができます」とウェバー社長CEOは言います。「保険適用範囲や償還、処方、研究資金の配分、治療における格差の特定など、すべてにおいてデータを基盤とするのです。そこに患者さんの健康を改善するという目標を据えれば、より良い意思決定を導き出せるでしょう。これこそが、価値に基づく医療(バリューベースヘルスケア)の核心です」

「ヘルス・アウトカム・オブザバトリー(以下、H2O)」は、官民一体となり、標準化されたデータガバナンスとインフラシステムを欧州全体で新しく構築する試みとして2020年に設立され、タケダもこれを支援しました。この取り組みにより、患者さんは標準化された方法でアウトカムを測定するデジタルツールを手にできるようになりました。これは、患者さんと医療従事者とのコミュニケーションの改善にも寄与します。患者さんは自身のデータを管理でき、かかりつけ医に共有するか、研究目的に共有するかなど選択できます。患者さんは自身のデータを研究のために共有することで、リアルワールドエビデンスの構築に貢献できます。これらは、研究者や規制当局者などの専門家が、より多くの情報に基づいて医療分野における意思決定を行う助けになるため、結果的に患者さん自身のアウトカム改善も期待できます。

このオンラインダッシュボードはH2O Insights Centreと呼ばれ、アウトカムを共有した患者さんの統計情報と病状が表示されます。ユーザーはこのダッシュボードを利用して、そこにある一連のデータが、疾患による影響や治療効果に関する疑問の解消に役立つかどうかを評価していきます。そのデータセットが重要だと判断すれば、ユーザーはH2Oに連絡し、そのPROの閲覧をリクエストします。こうしたタイプのエビデンスには、主要なステークホルダーによる医療上の意思決定に役立つ情報が含まれている可能性があります。ステークホルダーの視点を以下で紹介します。

ダッシュボードの詳細:

現在、H2O Insights Centre には、デジタルデータとして収集し集約したPROと、臨床データが掲載されています。

患者さんの視点 – 欧州患者フォーラム

患者自身のデータを医療従事者に共有し、医療従事者の意思決定に参加する意思があるかどうかを、私たちは複数の患者諮問団体に確認してもらいました。私たち患者は、研究や知見の前進に役立つと思う場合、自身のデータを匿名化された状態で共有することに前向きです(そのように回答しています)。それと同時に患者は、自身のデータを管理し、希望すれば研究プロジェクトからそのデータを除外できる選択肢を保持することも望んでいます。H2Oが非営利団体であり、リーダーシップの中に患者団体が含まれていることも重要な要素となっています。私たち患者は、単なる商業的利益のためにデータを共有することは望んでいません。そのため、患者と信頼関係を構築するには、複数のステークホルダーによる堅牢なガバナンスが非常に重要になります。

欧州患者フォーラム、戦略イニシアチブ担当ディレクター、ヴァレンティーナ・ストラミエッロさん*

Valentina Strammiello

学術的視点 - カロリンスカ大学病院

私の知る限り、H2O Insights Centreのような(無料で一般に公開されている)リソースは他にありません。このダッシュボードでは、患者さんの健康と治療アウトカムに関するデータを集計された形で見ることができます。そのため、患者さんレベルのデータを利用したい場合も、ここにそのようなデータがあるかどうかすぐに分かります。例えば、炎症性腸疾患に関する研究のため、オーストリアから600人、スペインから300人の患者さんのアウトカム情報を必要としている場合、ダッシュボードを見れば、そうした患者さんのデータを利用できるかどうかが分かります。これにより研究者はH2Oに働きかけ、患者さんレベルのデータを利用するための可能性を探ることができます。組織の枠を超え、国境も超えたデータを持つこのダッシュボードは、お互いに学び合い、有意義な比較を行い、「ここから学び活用できるベストプラクティスとは?」といった問いへの答えを見つけるなど、新たな可能性の扉を開いてくれます。

カロリンスカ大学病院、データアナリスト、アレクサンダー・チャクナシビリ博士*

Alexander Chakhunashvili

規制当局の視点 - 医療技術評価(HTA)

新たな医薬品が数多く登場しています。医療技術評価(HTA)機関として、私たちはこうした医薬品に優先順位を付け、適切な医薬品を適切な患者さんのもとに届けられるような、方法を見つけなければなりません。臨床試験を通じて得られたエビデンスはもちろん重要ですが、それだけで全体像を把握することはできません。実際の医療現場の標準的な治療方法と比較して新しい医薬品にはどのようなメリットがあるのかを理解する必要もありますし、患者アウトカムに関するエビデンスも必要です。従来のエビデンスの蓄積方法からも有益な情報を多く得られますが、そこには重要なピース、つまり実際の患者さんの暮らしの中でその治療がどのように効果を発揮しているのかが抜け落ちていることも少なくありません。

デンマーク医薬品評議会元会長、ヨルゲン・ショーラー・クリステンセンさん*

Jørgen Schøler Kristensen

製薬業界の視点 – タケダ

タケダの本プロジェクトへの支援は、患者さんのためにイノベーションに挑み続けてきた240年の歴史の延長線上にあります。H2O Insights Centreは、患者さんのニーズに、そして医療従事者と一緒に意思決定に参加したいという患者さんの思いに応えています。貴重なエビデンスを積み上げ、それらを保険者や意思決定者に提供することで、患者さんのためのより良い医療につながる可能性があります。

タケダ、グローバルプロダクト&ローンチストラテジー、プライシング&アクセス グローバルヘッド、ジュリー・スピッサー

Julie Spiesser

* 引用元:H2Oの『The impact of the H2O Insight Centre – How Patients, Academics and Regulators see it』

以下は2025年5月7日時点のダッシュボード画面です。リアルタイムのデータについては、 H2O Insights Centreをご覧ください。

H2O Dashboard

以下に、H2Oで患者報告アウトカムを取得するために標準化された質問を例示します**。患者さんは、医療従事者が提供するデジタルツールを使用し、事前に承諾した期間を空けてこれらの質問に回答します。H2O Insights Centreのダッシュボードには、自らのアウトカムを共有した患者さんの統計情報と病状が表示されます。

** 提供:H2O

i. Gnanasakthy A, Russo J, Gnanasakthy K, Harris N, Castro C. A review of patient-reported outcome assessments in registration trials of FDA-approved new oncology drugs (2014-2018). Contemp Clin Trials. 2022 Sep;120:106860. doi: 10.1016/j.cct.2022.106860. Epub 2022 Jul 25. PMID: 35901962. ii. Walsh A, Matini L, Hinds C, Sexton V, Brain O, Keshav S, Geddes J, Goodwin G, Collins G, Travis S, Peters M. Real-time data monitoring for ulcerative colitis: patient perception and qualitative analysis. Intest Res. 2019 Jul;17(3):365-374. doi: 10.5217/ir.2018.00173. Epub 2019 May 31. PMID: 31146510; PMCID: PMC6667366. iii. Basch E, Deal AM, Dueck AC, et al. Overall Survival Results of a Trial Assessing Patient-Reported Outcomes for Symptom Monitoring During Routine Cancer Treatment. JAMA. 2017;318(2):197–198. doi:10.1001/jama.2017.7156 iv. Benson T. Why it is hard to use PROMs and PREMs in routine health and care. BMJ Open Qual. 2023 Dec 21;12(4):e002516. doi: 10.1136/bmjoq-2023-002516. PMID: 38135303; PMCID: PMC10749067. v. Nguyen H, Butow P, Dhillon H, Sundaresan P. A review of the barriers to using Patient-Reported Outcomes (PROs) and Patient-Reported Outcome Measures (PROMs) in routine cancer care. J Med Radiat Sci. 2021 Jun;68(2):186-195. doi: 10.1002/jmrs.421. Epub 2020 Aug 19. PMID: 32815314; PMCID: PMC8168064. vi. Robert BoneGo to https://ascopubs.org/action/doSearch?ContribAuthorRaw=Bone%2C+Robert et al. Frequency of standardized patient-reported outcome measures in routine clinical care of patients with cancer.. JCO Oncol Pract 19, 342-342(2023). DOI:10.1200/OP.2023.19.11_suppl.342Go to https://ascopubs.org/doi/10.1200/OP.2023.19.11_suppl.342

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