「心理的安全性」と「高い目標」の両輪でチームに創造性が生まれる | 武田薬品
「心理的安全性」と「高い目標」の両輪でチームに創造性が生まれる
荒井健一
流通・地域アクセス統括部長
大学卒業後、タケダに入社。医薬情報担当者(MR)を経て、海外留学を経験。帰国後、社長室、関西エリア流通責任者、東京エリアMR部門責任者などを経て現職。
武田薬品工業株式会社
ジャパン ファーマ ビジネス ユニット
流通・地域アクセス統括部長
荒井健一
MRや、特約店を通じて医薬品を医療現場に届ける流通などさまざまな部門で管理職を務めてきた荒井健一さん。 2025年4月からは、流通・地域アクセス統括部長として、組織と個人が共に成長できる環境整備に取り組んでいます。これまでリーダーとしてどのようにチームをとりまとめてきたのか、重視していることや実践していることについて話を聞きました。
――流通・地域アクセス統括部の業務内容について教えてください。
荒井:部門名の通り、主に流通(商流・物流・金流・情報流)に関わる機能と地域の医薬品アクセス(必要な医薬品を、必要な患者さんに、タイムリーかつ持続可能な形で届ける仕組みを構築・強化すること)に関わる機能の2つがあります。流通機能については特約店(医薬品卸売業者)を通じ、医薬品を適正・安全・安定的に医療現場へ届ける役割を担っています。地域の医薬品アクセス機能については、自治体などと連携しながら、それぞれの地域が抱える医療課題の解決支援をしています。現在、約70人の流通・地域アクセス統括部のメンバーと共に業務にあたっています。
――流通・地域アクセス統括部に異動されてから、どのようなことに取り組まれてきましたか?
荒井:医療に関わる仕事である以上、信頼が非常に重要です。また、流通部門では、社外のステークホルダーとの相互信頼やつながりも欠かせません。そのため、最初に重視したのは組織文化の醸成です。組織文化の醸成には、「目指す組織の姿」の共有と、それを実現するための「組織活性化」の2つのステップがあると考えています。 まず、「目指す組織の姿」とは、ひとことで言うなら「信頼関係でつながったメンバーが主体性を発揮することで、組織あるいは個人としての成果や成長を実現する姿」です。これが、具体的にどんな行動や状態であるかをメンバーにイメージしてもらうことからはじめました。
――信頼関係の醸成のために取り組んでいることはありますか?
荒井:相互理解の時間を十分に確保することです。自身の価値観をメンバーと共有し、自己理解やチームの相互理解を深めるためのワークショップなどを活用して、メンバーが自分について話す場を設けて、お互いの強みを理解すると同時に違いを認識することを大事にしています。メンバー間の信頼関係がなければ、理論的に正しい戦略も機能させるのは難しいと考えています。
――メンバーが主体的に行動するために、どのように環境を整えていったのでしょうか?
――心理的安全性と高い目標の両立にはどのようなことが必要でしょうか?
荒井:この2つは決して両立が難しいものではありません。心理的安全性が確保された環境で、メンバーがそれぞれに実現すべきだと思う目標を見つけることが、結果的に組織としての高い目標の達成につながると考えています。先に述べた「組織活性化」の取り組みにつながるのですが、各チームに配置された組織活性化のメンバーは、“目指す組織の姿を実現するために必要だと思うこと”について主体的に取り組んでいます。 最初のうちは「いまこの部門が抱える課題」といったテーマを設けますが、これまでの経験からいうと、半年くらい経つと自分たちで課題を見つけ、解決のための新しい取り組みを本社に提言するなど、自走するようになっていきます。例えば過去には、女性が働きやすい環境づくりについて提言したことで人事部が動き、制度のアップデートが実現したこともありました。
――流通部門は従来、女性社員が少なくなりがちな部門ですが、現状はどうでしょうか。
荒井:タケダはグローバルでジェンダー平等を進めていますが、当部門ではようやく女性比率が2割に達して、マネジメントを担う女性も出てきました。過去には「ステークホルダーの多くが男性だから」という理由から、流通部門には女性メンバーが少ない時代がありましたが、今はそうではありません。特約店とは強い信頼関係があるので、例えば、子どもの事情による急なアポイント変更や、オンラインへの切り替えなど、育児中の女性メンバーにとって相談しやすい環境ができています。男女ともに働きやすい環境をつくるということは、常に意識しています。
――組織活性化の取り組みによる成果を実感したことはありますか?
荒井:MR部門の地域統括を務めていた時、潰瘍性大腸炎の新しい剤型の薬剤が発売になりました。これは自己注射できるので、患者さんの通院の負担が減らせる可能性があります。当時の東京のメンバーは、この医薬品をより多くの患者さんに役立てていただくために、デジタル部門のサポートも得て新しいアプローチ方法(スクラム)も取り入れながら、各担当者が、自身の担当の枠を超えて、主体的にアイデアを出し合う流れが構築されました。各課題に対して、組織力で対応する文化が構築されたことを実感し、組織活性化の取り組みの効果を感じました。
チームがあってこそ、患者さんに貢献できる
――医療現場、産官学など、日本のヘルスケアを支えるさまざまな領域があるなかで、製薬会社にはどのような社会的役割が求められているのでしょうか。
荒井:患者さんの人生を豊かにする革新的な薬を開発すること、そしてその医薬品を一日でも早く患者さんのもとに届けることに尽きると思います。最近は、疾患の社会的認知度の向上、デジタル技術の活用、社会的支援制度の整備・紹介などを通じて、患者さん一人ひとりの体験に寄り添うアプローチが重要であり、私たちも患者さんに寄り添う活動を進めています。また、製薬産業は、日本の基幹産業として、日本経済の成長を担う存在であり続けることも重要だと思います。
――その中で、流通・地域アクセス統括部が担う役割は何でしょうか。
荒井:日本、地域における持続可能な医薬品アクセスを実現することが、流通・地域アクセス統括部の存在意義です。そのために、タケダの強みである特約店や自治体とのつながりを生かし、さらにデータとデジタル技術を活用して、医薬品をより効率的に流通させる体制の構築も目指しています。新しい流通の形として、離島に医薬品を届けるためにドローンを活用する実証実験を行ったり、地方自治体に遠隔診療を提案したりするなど、地域ごとの医療課題の解決を通して持続可能な医薬品アクセスの実現に取り組んでいます。
――最後に、荒井さんが考える、組織について最も大切なこととは何か、お聞かせいただけますか。
荒井:患者さんのためにこれまで以上に何ができるか? タケダでは、すべてがこの問いかけから始まります。私たちは、タケダイズムの価値観である「誠実:正直・公正・不屈」を道しるべに「PTRB=Patient(患者さんに寄り添い)-Trust(人々と信頼関係を築き)-Reputation(社会的評価を向上させ)-Business(事業を発展させる)」の順に行動するという基本姿勢を大切にしています。私個人としては、前提として、「People(チーム)」が重要だと思っています。人と人とがつながり、周囲に良い影響を与えられるようなチームづくりを目指しています。これからもメンバー一人ひとりが同じ目的に向かって生き生きと働ける組織文化の醸成を通じて、組織力を強化していきたいと思います。