タケダが描く供給DXーAIとブロックチェーンが拓く安定供給 | 武田薬品
タケダが描く供給DX ― AIとブロックチェーンが拓く安定供給
なぜ今、「供給DX」が必要なのか
製薬業界の世界的な供給不安の顕在化、モダリティの変化、必要なときに必要な量の医薬品を求める医療現場のニーズの高まり、CO₂排出量の削減といった環境規制・社会的責任の厳格化、そして薬機法等の一部改正のような制度変化から生まれるデータ活用環境の進化など、医薬品供給を取り巻く外部環境はこれまでにない変革期を迎えています。
とくに品質・コンプライアンス要件の高度化や、原料調達の地政学リスクへの対応は喫緊の課題であり、サプライチェーン全体のレジリエンス強化が求められています。
タケダは、「すべての患者さんのために、ともに働く仲間のために、いのちを育む地球のために 」という約束を胸に、DXを通じたビジネス変革を推進しており、その実現を通じて「デジタルバイオ医薬品企業」を目指しています。こうしたビジョンのもと、製造から供給に至るまでの一連のプロセスを可視化・最適化し、品質のさらなる向上と安定供給を実現する基盤づくりを進めています。
End-to-Endで支える、タケダの供給DX全体像
私たちは、地球環境の負荷を低減しながら、患者さんに高品質な医薬品を安定的にお届けし続けることに責任を感じており、国内初となる「AI需要予測」と、ブロックチェーンを活用した物流可視化プラットフォーム「ML Chain®」を核に医薬品供給のDX化を加速しています。
主な取り組みとして、原料の調達から生産・物流、そして医療機関や患者さんに届くまでの流れを一元的に管理し、全体を見渡せる仕組みを整えることで、課題の早期発見と改善につなげています。
具体的には、AIを活用した需要予測を起点に原料調達の計画までを立てるとともに、生産計画や在庫状況、物流の進捗、さらには医療機関への供給状況までを整理・分析することで、調達リードタイムの短縮や生産計画の精度向上、物流・供給の遅延防止、現場オペレーションの省力化を促進していきます。また、「ML Chain®」を活用した物流により、温度・位置情報・ロット番号などをリアルタイムで可視化。環境に優しい輸送(モーダルシフト)の実現のみならず、医療関係者・患者さんへのお届けまでを一貫して見える化していきます。
国内製薬業界初のAI需要予測で、安定供給と効率的な生産を両立
コンビニなど一般小売業では、消費者がどんな商品をいつ購入したのかがわかるPOSデータが需要予測に貢献しています。一方、医療用医薬品ではプライバシー保護の観点から、POSデータの活用には国や地域によって制約があり、一般的には限定的です。
タケダでは、医薬品卸や社内営業部門の情報、さらには外部の二次データや市場イベント(薬価改定など)を組み合わせたハイブリッド型のAI需要予測をおこなっています。これにより、医薬品の安定供給を強化するとともに、在庫最適化や医療機関などでの廃棄削減、キャッシュフロー改善につなげていきます。
現在、AIの予測精度は、外部調査会社からこれまで高く評価されていたタケダの従来の人的予想と同等を達成しています。一方、従来は供給不足を懸念して予測が上振れしやすい傾向がありましたが、それを抑えると同時に、省力化にも寄与しています。将来的にはAI需要予測の頻度を高めることで、より迅速に生産計画へ反映させていきます。
また、最終判断は人が担うということも大きな特徴としています。AIの出力結果は常に検証可能であるべきだとも考え、ブラックボックス化を避け、要因分解や影響度の可視化をおこなっています。予測モデルは一度決めて終わりにせず、「Data Quality by Design」の考えのもと、良質な最新データや市場状況の変化に応じて継続的に再学習・再評価していく体制を整えています。
温度・位置・監査を可視化する、次世代の流通プラットフォーム「ML Chain ® 」
AI需要予測のもと生産された医薬品は、タケダが要件を描き、三菱倉庫が実装した次世代の流通プラットフォーム「ML Chain®」を活用して運ばれます。
厳格に定められた医薬品の適正流通(GDP)に対応し、工場出荷から卸への配送まで、温度・位置情報をリアルタイムで可視化。アラートがあれば社内外の関係者に同時共有します。これにより、兆候段階で回避行動がとれるため、温度逸脱の未然防止や配送遅延への対処、問い合わせ対応の削減に寄与します。
さらに、3PL(サードパーティ・ロジスティクス)の委託先レイヤーまで品質情報を紐づけることで、委託業務の監査を自動化。厳格な品質管理のもと確実な輸送網を確立するだけでなく、医薬品特有のロット情報などもオンラインで常時追跡することができます。
国内製薬業界初となる、このブロックチェーン技術を活用したML Chain®をタケダ社内での活用に閉じずに、広く開放することで、タケダは製薬業界の輸送品質向上にも貢献しています。
鉄道輸送でCO₂を削減、 医薬品のモーダルシフト
また、ML Chain®による物流の可視化を基盤に、JR貨物と連携した鉄道輸送へのモーダルシフトも推進しています。これにより、CO₂排出量の削減につなげるとともに、輸送能力の低下が懸念される物流の2024年問題への対応にも貢献しています。
将来的には、航空・海運の最適組み合わせによるグローバルなCO₂排出削減にも取り組み、安定供給と環境配慮の両立を目指します。
グローバルに長期視点で描く、医薬品供給DXの未来
タケダでは、「すべての患者さんのために、ともに働く仲間のために、いのちを育む地球のために」の約束を出発点に、経済合理性を備えたDXソリューションを開発してきました。
その理念を実現するには、現場に根ざした変革が欠かせません。DX化をIT部門に一任せず、事業部門が主体となって推進しているのが大きな特長です。その背景には、部門で推進するデジタル人材の育成や、「まずやってみる」という挑戦を後押しする組織文化があります。規制産業である製薬業界において、新しい試みを取り入れるのは容易いことではありません。そのような中でも、この組織文化がDXを用いた先進的な挑戦をすることを後押ししています。
今後もさまざまな産業と共創しながら、社会課題の解決に取り組み、患者さんに一日でも早く確かな品質の医薬品をお届けしたい。その思いを胸に、AI需要予測をはじめとする国内の革新的な取り組みは、タケダのグローバル拠点でも積極的に展開することを目指しています。
また、このナレッジを自社内でとどめることなく、プラットフォームの外部提供も視野に入れることで、長期的な視点で製薬業界全体のDXを前進させていきます。
すべては、世界中の人々の健康と、輝かしい未来のために。